留萌

北海道二日目の朝は6時起床、外は前日とは変わってどんよとした曇り空、
でも雪は降ってないなと確認してから身支度をととのえ、
前夜marronwさんと別れてからコンビニで買ったおにぎりをひとつと、お茶を少し。
今回の食事は夜にのみ重点を置くってことで。

そして札幌駅まで出てバスターミナルで留萌行きのバスの切符を買い、
乗り場をチェックして、そのまま外で待つのも寒いのでふたたび駅にもどってしばし時間調整。
7時58分、月曜日の朝の通勤通学時間、しばらく札幌の朝の雑踏をみてすごします。
c0114872_23332129.jpg


それからターミナルにもどり、札幌発留萌行き8時20分、
乗客は私を入れて10人ほどだったでしょうか、
このバスは札幌から深川を通って留萌まで行く高速バス。
c0114872_23335860.jpg

所要時間はおよそ3時間、トイレもついているので
ゆっくりと外の景色をみながら行くことができます。
ほんとうは函館本線を使って鉄路を行きたいと思っていたのだけど、
なかなか好都合に乗換えができる時間がなく、
またバスで行けば、ちょうど留萌で増毛に行く留萌線との待ち合わせが一時間半あり、
留萌の町も見ることができるぞとこちらのルートを選びました。

途中から高速にのり、バスは快適に進みます。
大きく開けた雪景色が次から次へとつながり、
前日の快速エアポートの時は晴天のせいか雪景色が目に痛いほどだったけど
この日は曇り空のせいでずっと外を見ていても目が疲れませんでした。
江別を過ぎたあたりで遠くの小高い丘陵地におびただしい数の鳥が群れ飛んでいるのが見えました。
見慣れぬ光景に目を奪われていると、数羽大きくうねりながらこちらへ来るものもあり、
よく見るとそれは鳶でした。
いったいあの群れ飛ぶあたりには何があるのだろう、
何のためにあんなに群れ飛んでいるのだろう。
大きな塊になって白い雪原に飛ぶ鳶たちは、
それはとても印象的な光景でした。

高速を降りて深川が近づくあたりから雪が舞い始めました。
時折暗くなったと思うと、サーッと横なぐりの雪が吹き付け、
こんな道を走るのは大変だろうなあと
一冬を雪と過ごす人たちの生活を思います。
明るくなったり暗くなったり、上がったり降ったりを繰り返す風景を飽きずにながめるうち
バス停ごとに少しずつ同乗していた人が降り、
終点留萌に着いたときは、とうとう私一人になっていました。



留萌の降車場から駅までの道も人の姿がありません。
c0114872_2335462.jpg

雪に埋もれた道路は交差点も歩道と道路の区別がつかないほど、
荷物をもちながらやっとのことで駅まで着きました。
とりあえず駅に荷物をあずけ、
およそ一時間と少しの時間で行けるところを考えます。
ちょうどお昼時だったので、お昼が食べられるところも少し調べてきたけれど
ここに着いてみると、食事より歩いてみたい気持ちのほうが先立ちます。
いざとなればカバンに入っているおにぎりがまだ一個あるもの、
温かいものも食べたいけれど、とにかく海が見えるところまで行ってみよう。
念のため切符売り場で増毛までの切符を買ったついでに
増毛行きが来るまでのあいだにいける近場を訊くと
切符を渡してくれた人は後ろの職員さんの方を振りかえりながら、
う~ん、この時期にこの時間でしょう・・やっぱり港かなあ・・
本当に行くの?というような顔をしながら、そうおしえてくれました。
雪のない季節ならなんなく歩ける距離だけれど戻れるかが心配と思い、
片道だけ駅前からタクシーに乗ります。
港までお願いします。
そう言うと、案の定、港?という顔をされたので、
列車までの時間が限られていることと、海が見たいことを告げると
しかし港に行っても何にもないよ、それでもいいの?ともう一度念をおされました。
ここは父の生まれた町なんです、そして海が見てみたいというと
それならと車を走らせてくれました。

しかし港に着くとほんとうに何もない。
海に面して市場や漁協などの建物が並んではいるのですが、
どこも扉をとざしたまま人影もなく、
ただ凍りついた波止場と空を映した海があるだけ。
朝なら市場も開くのだけど、もうこの時間はしまちゃってるのよ、
そう申し訳なさそうに言う運転手さん。
どうします?このまま引き返しますか?
そう言われ気持ちが揺れたけれど、どうしてもこのまま駅に引き返したくない
父の生まれた町を少しでも自分の足で歩いて感じてみたい
そう思ってやっぱりここからは歩いて帰りますと車を降りました。
c0114872_233661.jpg

外に出るとやんでいた雪がふたたび舞い始めました。
凍って足元の危うい埠頭を歩くと風に押し返されそうになります。
吹き付ける雪。
こんな時にと思って持ってきた帽子を大きなカバンに入れっぱなしだったことを思い出し
コートのフードをかぶってその周りをマフラーでぐるぐると巻いたけれど
巻き上がる風にマフラーはすぐにほどけ、フードもはずれてしまいます。

カモメさん、寒くないの?
c0114872_23364478.jpg

生きているものの姿があるのことにほっとしながらも
人気のない港から見える沖合いの白波に心細くなります。
ここが父の生まれた町の海なんだな、
どこかで産声をあげた父と、
それを喜んだであろうはるか昔のまだ若き日の祖父母。
祖父は当時転勤の多い仕事で
留萌にいた頃ちょうど父が生まれたのですが
ここも数年で転勤になり、留萌にいた時期はそう長いことではなかったようです。
それでもやはり、何かしら自分につながっているもののかけらを感じることはできる、
冬の海をみながらそう思いました。
c0114872_23401153.jpg

この港は明治の頃、それは賑わい、
日本各地から箱買いというような、船ごと鰊を買っていく船も多くきていたとか、
増毛で、賑わった当時の船のひしめく留萌港の写真も見せてもらいました。
それからも時代をこえて、この海には多くの船がやってきたことでしょう。
北の海、時化に見舞われ難儀した船も多かったことと思います。

それにしても寒い、それにそろそろ引き返さないと。
とうとう車が数台通り過ぎていったきり、人の影はなく
タクシーの通ってきた道を思い出しながら港をあとにしました。
港を離れると少し風はおさまったものの、
空気は肌を凍らせるほど冷たくて両手で何度も頬をはさんで温めました。


c0114872_23411860.jpg

これから乗る留萌線の踏み切り。
ゆるやかなスロープを滑らないように慎重に歩いていきます。
それにしても雪が深いな、
すれ違う人もなく、ただ雪道が続きます。

帰り道をどこかで間違えたようで、心もとなくなった時
ちょうど向こうから歩いてくる人の姿、ほっとして帰り道を教えてもらいました。
駅の近くの商店街も歩道と道路の間には雪がうず高く積まれ
シャッターを下ろした店も多く目に付きます。
c0114872_23415293.jpg

後から増毛の宿できいたことには、
留萌は駅周辺がすっかり寂れてしまい、
今は国道沿いに大型店舗などができてそちらの方がにぎやかだとのこと。
いずれにしても真冬のこの時季にわざわざ来る人もないだろうに、
父の生まれた場所とはいえ
よっぽど珍しい人もいたものだと思われたかもしれません。
夏にくればまた夏の風景があり、海も街もまた違う顔をみせてくれることでしょう。


駅にもどると待合室にはお年寄りが座って話し込んでいました。
そこには小さな売店兼お蕎麦屋さんもあって
もうひとりおばあちゃんが扉をあけて入ってくると、
いつものお蕎麦ひとついただこうかな、と曲がった腰を伸ばしながら
顔見知りと思われるお店の女性と楽しそうに話していました。
温かそうなお蕎麦の匂いに惹かれたけれど
間もなく12時30分発増毛行きの改札を始めますとの声
あきらめて荷物をとって改札に向かいました。
ホームには一両編成の留萌線。
c0114872_23473152.jpg

改札ではさっき切符を売ってくれた駅員さんが私をみて、
「港に行ってこられましたか?」と。
「はい、帰りだけ歩いて帰ってきました」
そう言うと、よかったですねというように微笑み返してくれました。

留萌を出るとすぐに少し前歩いたばかりの留萌港と海が開けてきます。
c0114872_23475142.jpg

もうじき私を育ててくれたお祖母ちゃんの海だ
お祖母ちゃんを育てた海が見えてくるんだ、
とうとう来たよ、お祖母ちゃん。
そう思うと胸がいっぱいになって涙がこぼれました。

この一文は友達のお父さまにも心をこめて。
[PR]
by kisaragi87 | 2010-03-07 00:03 | 旅・散策
<< 増毛へ ツララの夜に >>