鰊場育ち

母方の祖母は、北海道の増毛というところで、明治30年に生まれました。
まさに明治の女性を絵に描いたような人、
母は生まれて数日で、子どもに恵まれなかった祖父母のもとへ貰われたので
母も私も祖母との血のつながりは、ありません。
でも、幼い頃から仕事にでかける母の代わりに祖母に育てられた私は
祖母との血縁など、どうでもいいこと、
祖母は祖母以外のなにものでもなかったのです。

祖父を早くに亡くし、未亡人として母を女手ひとつで育てた祖母、
気丈で気性の激しい人でしたが
慈しみ、手塩にかけた一人娘である母を自分より早くに失ったときはもう80代
いくら勝気な祖母でも、この時はさすがに取り乱し、直後は半狂乱のようでした。
それでも、持ち前の気丈さを取り戻し、なんとか日々を過せるようになった祖母でしたが
その寂しさは、誰の目にもあきらか。

たったひとりの孫娘の私も、そして父もふだんは仕事にでかけ
出れば出たで気もまぎれるし、楽しいこともある
ひとり取り残された祖母が不憫で、なんとか励ましてあげたいと思い
ふと思い立って交換日記を祖母に渡しました。

間遠になったり、ならなかったり・・
祖母がポツポツと綴る文字からは、遠い昔の物語がきかれました。
祖母は増毛の鰊漁を生業とする網元の娘として生まれました、
私は昔語りを聞くのが大好き、
なのになぜか、祖母からはたいして多くの話をきかずに過してしまいました。
幼い頃の賑やかで、華やかだった頃が過ぎてから不遇な時代を迎えたせいか
祖母もまた、あまり多くを語りたがらず、いつもするのは同じ話しばかり。
それは、歳夜の話です、
祖母のところでは、大晦日の晩のことを、年越し、あるいは歳夜と言いました。

そんな歳夜の晩のことも書いた日記から。

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12月13日 午前12時半  おばあちゃんのおいたちからね
夜中に眠られず、紅茶を飲んだけれど
また眠られず色々のこと考えたり、○○ちゃんも同じことをと思っています。
今年は悪い年でした、○○ちゃんも同じ事と思います。
人間一生のうち、浮き沈みのあることは承知いたしてますが、
喜び悲しみのことは深く深く忘れがたい事です。

小学生の時、冬になりますと、大雪の時など、送り迎えのおり
馬が大便をしたり、おしっこをしたりするとき匂いがひどいのよ、
臭いやら、楽しいやらでした。

春になりますと、秋田県青森県方面から汽船に乗って大勢の人がきます。
その折り、土産に水あめワッパという入れ物に入っているのを持ってきてくれます、
火にあぶってへらでとって食べるのよ、今はそんな美味しい飴はないですが、楽しみでした。

正月近く、今ごろになりますと女中が、お正月に着る着物を縫ってくれて
31日に風呂に入り、足袋からぜんぶ新しいものにものに着替え
ひとりひとりのお膳に向かい、お年玉を貰うので、行儀よく座っています。
お年玉は50銭から、姉は一円でした。
元旦には女中さんは3時頃から起きてお餅を焼いたり、
男衆は夜明けを待って知り合い一軒一軒名刺を持ってまわり、帰りは夕方になります。

私たち子供はいろはカルタや百人一首をしたり、負けると顔に墨をつけるのよ
どこの家もまゆだまと言ってお餅を大きな木につけ、クリスマスみたいに飾りを色々下げ
楽しい幼い頃はこのうえない幸福でした。

南風とは、別名だし風といって、南風吹くようになりますと根雪もどんどんとけて鰊をとる支度
で忙しくなります。
大勢の若者や外で働く人方に拍子木をたたいて食事の知らせをします。
この時、となりの鰊場で鳴る拍子木に負けない、に大きな音で知らせるのです。

長くなりましたね、続きはまた書きます。



結局、この交換日記は長続きしませんでした。
祖母も億劫だったのでしょう、私もつい書くのが遅くなる(笑)
そんなこんなで自然消滅
そしてそれからは、年に一二度、会社が契約している保養施設に
私が旅行に連れ出すことにしました。
祖母もそれはずいぶんと楽しみにしてくれました。


私は北海道というと、札幌の父方の祖父母のところばかりでかけ
ほかの地は数えるほどしか行ったことがありません。
そして祖母も、私が物心ついてから北海道にでかけた記憶はないのです、
出好きの祖母がなぜ北海道だけ行かなかったかはきいていないけれど
郷愁の想いはきっと誰よりも強かったはず。
そんな祖母の想いも連れて
いつかはこの祖母の生まれた場所、増毛を訪ねたいと思っています。


今日は祖母の祥月命日
その戒名には「夏月院」という名前がついています。
夏の月、私はこの戒名が大好き。
夏の月を見上げると、祖母のことを思い出します。
気丈な激しい人でしたが、今は夏の優しいお月さまがよく似合うような気がします。

父のところに仏壇があるので、三階には小さな遺影だけかざってあります。
祖母の好きだった桔梗とあんみつと桃をお供え、
おばあちゃん、食べてみて、きっと美味しいよ。



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イラスト mattarihonnpo plus
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by kisaragi87 | 2007-07-31 07:00 | 思い出ぽろり
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