ヘリオトロープの香り

季節もちょうどいいし、
どこか旅にでも行きたいな~と思いつつ、時間も先立つものもないし・・
そういえば、この夏の広島への旅行の時に、
不思議な巡り会わせがあったんだと思い出しました。
書こう書こうと思いつつ、実際に記事になる前にお蔵入りも多いのですが、
こうやって三ヶ月もたってからやっと記事になることもあって。


そのめぐり合わせとは
以前書いた記事で、載せた写真に咲いていた花、
この花は、ヘリオトロープという花だと思いますというコメントをいただいたことがありました。
その後、また調べてくださったのか、
どうも違っていたみたいですと、再度コメントいただいたのですが
その「ヘリオトロープ」という花の名がどうしても忘れられずにいました。

c0114872_7422440.jpg



今まで知らなかったことを、いったん知ると
不思議とそこから、ほどなくその言葉にまためぐり合うということはないですか?

この時もそうでした。
その花の名を知ってまもなく
広島へ行く飛行機の中のこと
座席の前に各席備えられている、航空会社の雑誌を手にとりました。
観光地の写真や、エッセイなどが載っている雑誌なのですが
暇つぶしにパラパラとページをめくると
「東京読書引力散歩」という、楽しそうな特集ページがありました。

c0114872_7425999.jpg



江戸川乱歩に始まったその文章は、夏目漱石にうつっていいきました、
そこに書かれていたのが、ヘリオトロープ。
つい先日知ったばかりの、花の名ヘリオトロープが書かれていたのです、
それはヘリオトロープの香水として、小説三四郎の中で大切な脇役で出てくるのでした。
三四郎は読んだはずだったけれど、
このヘリオトロープという香水が出てくる場面は忘れていました。
ヘリオトロープという花の名も初めてきいたと思ったくらいだし
まして、その花をもとにした香水があろうとは思ってもいませんでした。

c0114872_18495480.jpg


ここの場面に出てくる本郷という場所は
私の母が、いつも仕事で歩いていたところ、
保険の外交をしていた母の担当地区が、本郷弥生町近辺、
私も夏休みや、冬休みなどには、時々母の仕事について
このあたりもよく歩いたことがありました。
一人っ子の寂しさからか、仕事に行く母にどうにも甘えたい日があって
つまらないつまらないと駄々をこねると
時おり、母は私を仕事に連れていってくれました。
そんな幼い頃を懐かしく思い出しながら次のページをめくると
なんと三四郎池がでてきました。
三四郎池は、東大の構内にある池で、加賀藩の屋敷があった当時の名残りの池
小説三四郎にもゆかりがあります。

c0114872_7481899.jpg


母についていった日、この池のほとりの石にこしかけて
お弁当を食べたこともありました。
蝉しぐれの中、しばし石から石へ飛んだり、はねたり遊んだこともありました。
ただ母と一緒の時間がうれしかったのと、
人影もまばらな隠れ家のようなこの池のほとりが好きだったのでしょう。
「この池の形は、心っていう字をかたどってるのよ」
母がそういって教えてくれたことも思い出しました。

そんな頃の母がつけていた香りがありました、
香りと言っても、香水ではなく、いちばん薄い香りのコロン。
今はすっかりリニューアルされて
昔のものは作られていないようなのですが
資生堂で出していたコロンの、禅という香り。
黒くてぽってりとした丸みを帯びた瓶に金色の桔梗や秋草が描かれていて、
母の好きな和服に似合いそうな香りだったように記憶していますが
その瓶は、ひそかな私の憧れだったのです。
ただ、その香りをまとう日の母は仕事にでかけ、私を忘れる時の母でもありました。

化粧をして、着物を着て、帯を締め、
最後にコットンに少しだけこのコロンをつけると、
母はきまって着物の胸元にそれをそっとしのばせました。
母にとっては、よしっ、と自分に気合いを入れる
ひとつの儀式のようなものだったのかもしれません。

香水などの香りとは本来肌につけて、体温にあたためられ時間とともに
変化する香りを楽しむものなのでしょうが、
それでも、肌襦袢から伝わるほのかな体温で、かすかに香ったのでしょう。
仕事から帰ってきた母に甘えて、もたれたり、抱きつくと
その香りがしたものです。

今はもうどんな香りだったか、思い出せません、
ネットで調べたら、まだ手に入れることはできるようなのですが
香りというのも不思議なもので、
きっとこの禅の香りをかいだなら、いっきに当時の色々が思い浮かんできそう。
母の肌のぬくもりや、かすかな気配までしそうで
手元に取り寄せたいような、
なんだか封印したものがこぼれてきそうで少し怖いような気もする、
そんな二つの気持ちがせめぎあったまま、ずっとこのコロンを買えないでいます。


c0114872_745342.jpg



ヘリオトロープの香水も、どんな香りがするのでしょう、
紫の小さな花、ヘリオトロープ、
そこからつながった母の香り、やっぱり思い出したくて
もしかしたら買ってしまうかもしれません。
[PR]
by kisaragi87 | 2008-10-19 07:50 | 思い出ぽろり
<< 今日の日にありがとう 秋の色 >>