今から二十数年前、奈良を旅しました。
仕事で出張だった恋人と落ち合って、奈良で一泊。 それからまた仕事に向かう彼と別れて、ひとりでもう一泊。 ずっと泊まりたいと思っていた奈良ホテルの小さなシングルの部屋。 一人旅の夜は、静かに絵葉書を書いて、クラシックホテルのひとときを楽しみました。 そして翌日向かったのが、秋篠寺。 ここは、当時読みふけっていた、立原正秋の小説 『春の寺』 にでてくる技芸天に会いたくて でかけたのです。 立原正秋の小説は、恋愛ものが多かったのですが、 そこに書かれている風景や情景に惹かれていたように思います。 私は読んでいて、景色が浮かんでくる文章が好き。 五木寛之や、水上勉、その作品達の舞台を訪ねて旅したこともありました。 この春の鐘の舞台を訪ねたのも 古都奈良の風景がそこかしこに描かれている文章にゆっくり浸った時間の もとへ旅してみたかったのだと思います。 当時は、まだ「秋篠宮」で有名になる以前であり 古都の田んぼ道をゆっくり歩きながらめざしたその古寺はほんとうに訪ねる人も少なく ひっそりと、でもほっこりと建っていた。 お目当ての技芸天とは、 摩醯首羅天(大自在天=シヴァ神)が天界で器楽に興じている時、 その髪の生え際から誕生した天女とされ、容姿端麗で器楽の技芸が群を抜いていたため、 技芸修達、福徳円満の守護善神とされる仏様だそうな。 小説の中でも、こう書かれている 「まあ、美しいほとけさまだこと」 「色っぽいだろう」 「そうですわね」 「目もとが涼しい。色っぽいが、しかしよくみると、天平末期の幽愁を秘めている。 若い頃、僕はこのほとけさまに恋をしたことがあった」 こんなふうに賛美され、多くの人をひきつけた仏様とはいったいどんな方? ふつふつと見たい想いにかられ、でかけてみました。 実際に目にした技芸天は、ふっくらとふくよかで天女というから女性なのでしょう 色っぽいと言われれば、たしかにそういえなくもなく そんな不思議な魅力も感じるのですが 実はこの技芸天、 日本ではこの秋篠寺だけにあるらしく また、頭部のみが天平時代に作られた脱活乾漆像で、 からだは鎌倉時代に作られた木造ということらしいのです。 よくよく見ると、頭部からは何やら、シルクロードや、ギリシャのかおりがしてくるような。。 このお顔の下につくからだの部分がもう少しスリムなら、 きっと違った印象をうけるのかもしれないと思ったりします。 しかしながら、このアンバランスともいえる上下の違和感が、なんともいえない 雰囲気をかもしだしているのかもしれませんね。 仏像にはくわしくないけれど、この技芸天といわれるお顔に、阿修羅のようなからだをつけてみたいという不謹慎な欲望があたまをかすめました。 そしてようやく念願かなったその時に、ずっとわきにいらっしゃった 愛染明王に目をうばわれてしまいました。 赤く燃えるようなその姿。 煩悩と愛欲は人間の本能でありこれを断ずることは出来ない、 むしろこの本能そのものを向上心に変換して仏道を歩ませるとする功徳を持っている というようなことが書かれていたように思います。 この旅行に前日まで一緒だった恋人とは、おそらく結ばれることはないだろうという人でした。 不倫とかではない、ただある理由があって彼の母親が私との結婚に強く反対していて それを無視して一緒になることは、お互いを不幸にするだけだと彼は言ったのです。 人を傷つけて始まった恋、恋に落ちるとはこういうことだというお手本みたいな恋だったけれど お互いを強く求めてもいました。 結ばれないと思えば思うほど、恋のゆらめく炎は静かに燃えていました。 そんな時に見た、愛染明王はそのめらめらと燃えるような激しい姿とはうらはらに 私の心を優しくいたわるようでありました。 思うだけ恋しなさい、と言われているようで、涙があふれるように癒されました。 これだけ強く印象に残る愛染明王なのですが 今回いくら調べても、秋篠寺に愛染明王がいらっしゃるとう記述がなく しょうじき途方にくれました。 あの時、私がみた仏さまはどうしてしまったのだろう。。 あの赤く燃える姿は、まぼろしだったのだろうか? どうしても不思議でなりません。 つきあって3年目の春にでかけたこの旅行、その夏に恋人とは別れました。 短歌そのものを知らないのですが、あとから付け加えた、拙い返歌です。。 水底に ことりと落ちし 石ひとつ 赤い縁に 仏がみえる #
by kisaragi87
| 2007-03-23 16:51
| 恋
春分の日も近く、ずいぶん日が伸びてきたのに
寒さのほうは、いきなりまき返しをねらっているようなこのごろ。 暑さ寒さも彼岸までになるのか、 桜の知らせはいつになるのか、気になります。 そんな日曜日に予約をしてあった娘の成人式の振り袖の下見をしてきました。 来年のことなのにこんなに早く?と思われるかもしれませんが これでも特別早いというわけではないらしく、 中には18歳のうちに、下見をしておおよそ決めてしまう人もいるらしいのです。 我が家は下が男の子ですから、レンタルにしたのですが 晴れ着のDMも、毎日のように郵便受けに入り、あれこれ目移りするものですね。 結局遠くの展示場にいっても、品数が多すぎてかえって迷いそうなので、 私のいきつけの美容院におおよその好みを伝え20点くらい取り寄せていただきました。 いつもは、さっぱり派の娘なのでもしかしたら、振り袖は着ないから、 代わりに短期留学でもさせてくだい なんて言うかもしれないな。。と思ったりもしていたのですが なんのことはない、やっぱり振り袖を着たいそうです。 正直言って、誰もかれもが、同じような晴れ着姿で、真っ白いショールを肩に 歩きなれない足さばきで、ぽこぽこ行列するのは、あまり好きではないんです。 どうして皆一緒なんだろうと、天邪鬼な私は思ってしまう(笑) そうはいっても、自分も母の希望で振り袖姿になった昔もあったわけだし 本人が望むことでもあり、一生一度の二十歳のお祝いですものね、 そうと決まれば、楽しみましょう、ということになりました。 あらためて何枚も広げてみると 振り袖ってほんとうに華やかで美しいものですね。。 ひとつの着物の中に、描かれた模様は、花あり、鳥あり。。 日本の伝統の美しさ、花鳥風月の美しさをあらためて、再認識しました。 最近は、華やかで現代的な洋服にもできそうな柄も多く それも、とても可愛らしいのですが 娘も私も、どちらかというと古典的な柄好みで意見が一致 知らないうちに娘に伝わっているものがあるのかと ちょっと、うれしかったり、不思議だったり。。 あれこれ試着してみて数点にしぼり、 結局淡い水色から淡い鶯色にふわっとグラデーションする地に、 古典調の柄が描かれたものを選びました。 とっても優しい雰囲気で、娘にもよく似合い春爛漫という感じです。 若いっていいなぁ。。 まだいいものが出たら、お知らせしますね、と言われたのですが ほぼこれで本決まりになりそうです。 私の時は、着物好きの母が、 やはり同じ着物好きの友人のお嬢さんが着たという振袖に一目ぼれ、 それを譲っていただいたものを着ました。 めずらしいミントグリーンのような地の裾に、銀糸でふちどられた白い蝶が舞い 一風変わった着物で私も気に入って大事にとってあったのですが 娘も着てもらえたらと思ったものの 本人気にらず、また顔映りも今ひとつだったので、あえなくお蔵入り。 着物好きの母が元気であれば、可愛い孫のために、 あれやこれや大騒ぎだったかもしれません(笑) これから小物合わせや、髪型決め。鬼も笑っちゃいそうな、来年のお話ですが まだまだしばらくお楽しみがありそうです。 娘の成長を喜びつつ、晴れ着選びができた一日 春の暖かさが、ぽっとやってきたひとときでした。 #
by kisaragi87
| 2007-03-19 12:51
| 日々雑感
今朝、ベランダで洗濯物を干していたら、南の空に大根の月が出ていた
白くて薄くて、ちょうど輪切りにし損ねた大根みたい 透き通って、あっちが見えそうでしょ。。 もっときれいに撮れればよかったけれど、これが限界(笑) この大根の月という言い方は、向田邦子が小説の中で使っていた言葉 その話自体は忘れてしまったのに、 大根の月という言葉だけ、やけにくっきりと記憶に焼きついてしまい それ以来、こんな月を見ると、 『 あっ、大根の月。。 』 とつぶやいている。 大根の輪切りって、けっこう難しい。 よく祖母が、お正月の大根なますを作るときに、上手に輪切りにしていたっけ。 うすければ、薄いほどいいのよ。 そう言いながら、スライスしていく。 見事に、ペラペラになっていく大根に見とれていた。 いまだに、あの時の祖母のようには輪切りができない。 そして、もうひとつ、祖母のようにできないのが運針。 機械のように、正確な目で縫い上げられていく布たちが、 祖母の言うことをきちんときいているかのように、みるみる仕立てあがっていく。 ああ、まだまだ修行が足りないなぁ。 アマリリスが咲きました。 #
by kisaragi87
| 2007-03-12 14:29
| 日々雑感
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