増毛 その三 ありがとう

宿にもどってから中のお風呂は寒すぎるからと海の見える温泉まで送ってもらい
すっかり温まってから再びご主人の迎えの車にのると
奥さんのお友達が増毛元陣屋の学芸員さんをされているとのことで
その方に連絡をとってくださり、今から会えるという話がついていました。
わざわざ私のために元陣屋をあけてくださるとのこと、感謝感激。
戻って祖母の両親の名前が載った資料を取り、
風呂上りすっぴんのままその足で増毛元陣屋までまた車で向かいます。

迎えてくださったのは学芸員のO氏。
いつもは保管してある貴重な資料まで出して見せてくださいました。
国稀さんできいた浜を区切って年毎に買うという話を
実際資料として残してあるものも見せていただきました。
実物の公開はできないので、仮にどんな感じかというと。
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浜のその年に買い取った場所に各網元の名前が記載され、
下には網本の屋号と名前が一覧表になっているのです。

祖母の書いた一文から、

南風とは、別名だし風といって、
南風吹くようになりますと
根雪もどんどんとけて鰊をとる支度で忙しくなります。
大勢の若者や外で働く人方に拍子木をたたいて食事の知らせをします。
この時、となりの鰊場で鳴る拍子木に負けないように大きな音で知らせるのです。


ここに書かれている
「となりの鰊場で鳴る拍子木」という言葉と情景
今ひとつ隣の鰊場という言葉がわかりにくかったのですが
この資料によって納得し、よりいっそう鮮やかに目に浮かぶようになりました。

しかしながら、残された名前も資料も昭和のものばかり。
そしてその浜の買い取りも私の生まれた昭和30年代を最後に途絶えています。
30年代になってとうとう鰊がほとんど獲れなくなり
浜の買い取り制度もなくなってしまったそうなのです。

せめて昭和の時代の後継者がいたのか、
誰か一人の名前だけでもわかれば手がかりになったかもしれないのだけど
実家の姉妹と仲たがいのような形で家を出た祖母からは、
その後の吉田家の詳しい話はきかされたことがありませんでした。
そんな複雑な経緯は「握手」に書いたことがあります。

けっきょく祖母につながる糸口はみつからなかったけれど
私のために動いてくださった増毛館の奥さんやご主人
そしてO氏に国稀酒造さん、そんな増毛の方々の気持ちが心底あたたかくて
やっぱり来てよかったという思いが深くなりました。
増毛はアイヌ語のマシケイ、カモメの集まるところからきた地名だと言われているのだとか、
鰊の群れに、群れ飛ぶカモメ。
夏はよく泳いだものよと、平泳ぎの上手かった祖母が育った増毛の海、
祖母もよかった、よかったと言ってくれているような気がします。
よくよくお礼を言って、宿にもどりました。

お待ちかねの夕食、朝と昼はおにぎり一個ずつだったからお腹はぺこぺこ。
お刺身に、酒蒸し、地元で獲れた甘エビ三昧。
この晩の宿泊は私ひとりだったので、
生ビールの泡の極意を会得しているご主人の一休さんが
美味しい甘エビの食べ方も伝授してくれたりしながら、食事の話相手になってくれました。
増毛で宿を始めた経緯や、その前にいた雄冬のこと、
かわいらしい奥さんや、二人の愛息子ちゃんのこと、旅の話・・
話しながら、飲みながら、食べながら。

タコに手作りハンバーグ、町の自慢のお豆腐。
そして最後に殻つきホタテのバター焼きにご飯をのせて食べました、
増毛の夜は美味しすぎ。
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それからいったんテーブルを片付けて、ご主人のギターの弾き語りの時間です。
花、風に立つライオン・・私もルージュを一曲。
ランプの灯りと、手作りスポットライト、お友達が作ってくれたという譜面台、空には南十字星。
ギターの音色をきくうちに、外からもポタン、ポタンと軒をうつ音、
曇りガラスを開けると、いつのまにか、雪ではなく雨が降っていました。
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12時近くに湯たんぽで温まった布団へ。
その夜はしだいに風が強くなり、
時おり大粒のみぞれが屋根をたたき外は大荒れ、昼間の穏やかさが一変です。
でも布団の中の私は、増毛の人たちの温かさと湯たんぽのぬくもりに満たされていました。


時々ゴーという風の音に何度か起こされながら迎えた朝、
外をみるとまだ雨がぽつぽつ降っていたけれど
7時40分発の札幌行きのバスに乗る頃にはあがっていました。
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# by kisaragi87 | 2010-03-13 16:32 | 旅・散策

増毛 その二 国稀酒造

増毛館のご主人や奥さんには今回の旅は祖母の生まれ育った増毛を歩くことと
もうひとつ祖母の生まれた鰊漁の網本である吉田家のことが何かわからないだろうか
そんな手がかりが何かないだろうかという目的もあるのだと話してありました。

そして、それなら郷土資料室がある増毛元陣屋に行けば、
何かしら資料があるのじゃないかと言われたのですが、なんとこの日は月曜日。
元陣屋はお休みの日だったのです。
明朝は早くに増毛を発つ予定にしてあり、諦めるしかなくがっかりしていると、
国稀酒造さんでも何かわかるかもと言われました。
(国稀という名前の由来も興味深いので、歴史のページにリンクしてあります)
ついでにお酒の試飲もできますよと。

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それで立ち寄った国稀酒造。
国稀酒造さんは、明治15年の創業、
当時鰊漁の好景気が続き、需要に応じて明治35年に酒蔵を新しく建設
日本酒造りと鰊漁がともに栄えた華やかな時代があったのだと思います。
明治30年生まれの祖母、その両親の時代、
まさに国稀酒造さんの歴史とも色々な部分で重なっていると思われ
祝い事の時にはこちらからたくさんの日本酒が買われたこともあったかもしれません。

お店に入ると、酒蔵の見学ですか?と訊ねられ
お店の奥に続く酒蔵へと案内してくれました。
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増毛は暑寒別岳連峰を源とする清らかで豊かな伏流水があり
北前船も飲料水を補給した場所だったとか。
そんな良質な水に恵まれた地で作られた日本酒です。
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いくつか日本酒も試飲させていただきました。
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シンと冷たい空気の酒蔵で味わう日本酒は格別、
日本酒はあまり飲めない私だけど、からだに染み渡るような美味しさです。
日本酒大好きが高じて
とうとう日本酒利き酒師初級の資格までとってしまった夫に飲ませてあげたいなあと
中から二本を選び送ってもらうことにしました。
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色々話しながら、祖母のことなどこの旅の経緯を少し話させていただくと、
それなら鰊漁の歴史をまとめたビデオがあるので見ていきますか?と。
そして説明をしてくれた女性が会わせてくださったのが
創業者がひいひい?お祖父さんにあたるというお嬢さん。

座って熱い甘酒をいただきながら色々なお話をきかせてもらいました。
当時の鰊漁は浜から沖合いまで
幅16メートルくらい、沖に向かって200メートルくらいまでを各網元が買って
そのいわば縄張りのようなところに網をしかけて獲ったとうこと。
みながてんでに網をかけていたと思っていたので
初めて知ってびっくりしました。
それは毎年買いなおしで、たまたま買った場所が
よくとれるかどうかはその時の運しだい、
なので力のある網本は場所を少し離して何箇所も買うということ。
当時内地からも出稼ぎの人がたくさん季節になるとやってきたこと。
鰊漁とともに栄えた酒造りだったけれど
いっぱんの猟師には日本酒は贅沢品だったこと、
にぎわった当時はサイダーがよく売れて増毛にもサイダーを造る工場があったこと。
そして、吉田といえば、ひとつ思い当たる家があると話してくれました。
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もしやと思いどきどきしながら話をきいたのですが
よくきけばかなりの大きな網元だったらしく、その後も代々続いたらしいのです。
祖母の実家の吉田家の様子も話すと
それも大きな網元さんだったでしょうねということですが
祖母の代で四姉妹となり、跡継ぎがしだいに途絶えてしまったらしい話と重ね合わせると
どうやら少しくい違いが出てきます。
何しろ明治時代のこと、もう生き字引のような方もおらず
やっぱりそう簡単にわかるはずもないのでしょう。
それでも話の様子からにぎわった当時の増毛の光景が目に浮かび
もしかしたら祖母もこの酒屋さんの格子戸をくぐったこともあったのかもしれないと
そんな思いもめぐりました。

小一時間も話しこんでしまいました。
夏の観光時期じゃなくてよかった、冬の今だからこそこんなにゆっくりお話できたんですよ、
また何かわかったらご連絡しますね、
最初に説明をしてくださったお店の女性、そしてお嬢さん、
私のためにストーブまでつけて
色々資料もめくりながら思い出すまま一生懸命祖母の手がかりをさがしてくださいました。
甘酒のお代わりまでして、二人の笑顔に送られて店を後に。
ほんとうにありがとうございました。
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そろそろ夕暮れ時、宿にもどろうかな、と思いつつ
最後にちょっとだけ港のそばまで寄り道してみました。
留萌も増毛も冬の港はまだ寒そうな風景が広がるばかりです。
でも初めての鰊の便りも届いたみたいだし、春はそこまで来ているのだな、
祖母もこの留萌へと続く浜のどこかに立って
鰊船でにぎわう海を見たのでしょう。
夏には青い空を映した海がまたきれいなのだろうと思います。
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そして宿に戻ると、もうひとつうれしい報せが待っていました。
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# by kisaragi87 | 2010-03-11 06:21 | 旅・散策

増毛 その一 てくてく

増毛に着いてからまずその日に泊まることになっている駅のすぐそばの
「ぼちぼちいこか増毛館」という宿に行きました。
この宿は昭和七年築の建物をまだ若いご夫婦が
男女別の相部屋ユースホステルスタイルで宿にしたところです。
予約するときに年齢制限はありませんか?と妙なことをきいてしまった私。

そこで荷物を置いてからご主人の一休さんに
地図を広げておすすめ徒歩ルートをおしえてもらいます。
奥さまの純子さんのいれた紅茶も美味しい。

幸いお天気も穏やか、風もなく、寒さもさほどではなく、
足元だけが少し心もとないけれど、
危なそうなところは小刻みすり足で大丈夫と、アドバイスをもらい出発です。

まずは風待食堂の角を曲がり(写真でいうと左に、宿は右手奥)
坂道を上がっていきます。
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下から見上げると大丈夫だろうかと不安になるけれど
車の轍で踏まれていない雪のあるところを上ってみれば案外足元も大丈夫。

しばらくあがると少し年配の女性が降りてきました。
いちおう確認しておこうと、
「すみません灯台はこっちでいいですか?」
そうきくと、
はいはい、こっちで大丈夫、
その上の電信柱のところを左に曲がるのよと笑顔で教えてくれました。
そして、「どこからいらしたの?」と。
埼玉からですというと
まあまあ、この雪の中よくこられたわねえと立ち話になりました。
あれやこれや話すうちに、
「そういえば今日今年初めての鰊船が出たってきいたけど・・」
海の方を見晴らしながらそんなことを言われました。
私も一緒に海をみながら、えっ今日?
鰊船という言葉に見えもしない船を思わず沖合いに捜してしまいました。
そうか、春なんだな、もう鰊漁が始まるんだ。
ちょうど増毛を訪ねた日に今年初めての鰊船ときいて、なんだかうれしくなりました。
ゆっくりしていってね、楽しんでくださいね。
そう温かい笑顔で言われ
写真を一枚撮らせていただいてもいいですか?と別れ際に申し出ると
「あらぁ、だって80歳のおばあさんよ」と照れ照れ。
はにかんだ笑顔がまたすてき。
「80歳なんですか?信じられない!」と思わず言っていました。
お世辞じゃなく、ほんとうに背筋が伸びてピンク色の頬、
それじゃ母と同じくらいのお歳なんだとびっくりしました。
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北国のぴんと冷たい空気がこんなすべすべの肌を作るのだろうか。
大きく載せられないのが残念なくらいのべっぴんさんです。
出だしに出会った素敵な女性、とってもあたたかな気持ちになりました、
幸先がいいなあ。


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増毛灯台は増毛駅裏の高台に建ち、増毛港から留萌湾を一望することができます。
もうちょっと海の見える崖際に行こうとしたけれど、
ここで滑り落ちてもなんだしと断念。

そこから少し引き返し、また角を曲がってさらにのぼり増毛小学校へ。
誰もいない雪道を歩き・・
やがて広い通りに出ると、雪山の向こうに小学校の校舎がみえました。
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増毛小学校は大規模な二階建ての木造校舎で
第2次世界大戦前期都市型木造校舎としては、
北海道に残された唯一の現役校舎です。
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開校は明治11年、この校舎は昭和11に建てられています。
祖母もここの前身だった増毛尋常高等小学校に通っていたのです。
ここが校庭
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こちらが入り口で
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こちらが同じく木造の体育館です。
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体育館から子供達の声がします。
こんな木のぬくもりのある小学校、いいなあと思うのは大人のノスタルジーなのだろうか。
今回の旅で幾度か何人かの方からきいたことばに
北海道はあまり古いものにこだわらないということがありました。
そこはフロンティア精神の息づくところ、
歴史ある建造物も意外とあっさりと壊してきたようなのです。
私の泊まった増毛館という宿も取り壊しの話をきいて
今のご主人がかけつけ、宿にして保存に協力なさったとか。
実にこの増毛小学校の校舎も何度か建て替えの計画がもちあがったそうです。
たしかに極寒の地、
よそから来て郷愁でみつめるのと
日々そこで生活するのとでは大きな違いがあると思います。
快適な新築にしたいという気持ちも無理からぬこと。
でも子供達の楽しそうな声を外からききながら、
やっぱりこのたたずまいはいいなあと思いました。
そして増毛の町の方々も愛着をもっておられることも事実なのです。

学校を通り抜けて反対側の坂道を降りるときに増毛の町と海を見ることができます。
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坂をころがり落ちないように慎重に歩をすすめていたら
後ろから小学校低学年かなと思われる男の子がじょうずにとんとん歩いてきて
私を追い越していきました。
早引けしたんだろうか、ちょっと声をかけてみたくなったけれど
かわいい後姿をみおくりながらやめておきました。
遠くの山並みにも目をうばわれます。


町に下りてからまた歴史ある建物がならぶ家並みをみながら歩きます。
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どこも雪がうず高く積まれ、
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時おり除雪車ともすれ違います。
雪、雪、雪の日々、春が待ち遠しいだろうな。
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そして立ち寄ったのが、日本最北の造り酒屋、国稀酒造。
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# by kisaragi87 | 2010-03-09 07:27 | 旅・散策