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ライラックの頃

夕子ママさんのところで切り絵作家の滝平次郎さんが亡くなられたことを知りました。
「花さき山」や「モチモチの木」などの絵本でも印象深いものがありますが、
私の中のいちばんの思い出は、1970年から1977年にかけての
7年間、朝日新聞の日曜版に切り絵が連載されたときでした。
始まったのが私が小学校も最後の年、
それから中学、高校とちょうど家庭でもいろいろあった頃と重なります。

この日曜版を切り取って集めていたのが父、
きっと父の家を家捜しすると、どこからかどっさり出てくるはず。
谷内六郎の絵で有名だった雑誌の表紙絵もたぶんどこからか出てくると思います。
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ふるさとの風と雲―滝平二郎画集
その頃はこんな風景が多かったような気がします、季節を感じさせてくれる田園風景に、姉弟のような子供が出てくる場面が多かったかな・・
あくまでも私のイメージの世界なのでそこのところはあいまいですが
私も毎週どんな絵がくるか楽しみだったことは憶えています。

父は昔から、蒐集マニアで、凝り性、
その時々でマイブームがくると、母があきれるほどそれにのめりこみます。
ほんとうに変わったところでは、トイレの落し紙、
当時はトイレットペーパーなどというしゃれたもはない時代、
もちろんトイレもお尻の下からピューと風が吹いてきそうなところですからね
個室の片隅のカゴに置かれたちり紙は一枚一枚になっていて
その中に不良品があると、微妙な穴が紙に空いているのです。
その穴の形が何かを連想させるものだった時に、父はこれだ!と思ったのでしょう。
紙をトイレから持ち出して、大切にとってあったこともありました(笑)

後から父のコレクションをひもといてびっくり、
これっていったい何?と、あきれる私に父は得々と説明をしてくれるのでした。
真剣に話す父に、あきれるやら可笑しいやら。

一度は石にはまったこともありました。
ひとり娘で、両親の結婚後9年目に生まれた私は、
たぶん父から溺愛に近いような愛情をそそがれていました。
もともと子供っぽくて、自由人、そんな父は、私のよき遊び相手でもあり
遊ぶ時は手抜きなしでとことんつきあってくれました。
そんな幼い頃私も父に伴われ、よく川に遊びに行ったものですが
川遊びをしながら、父は石を探します。
そして見込んだ石を車に積んで帰ってきては
その石に磨きをかけ、寸法をきちんと測って木材に直接図面をひいて
石を載せる台を作ります。
大きなお盆のようなものに載せるのではなく、石の形にピタリと沿った台を作ります。
みるみる彫りあがる台座に最後に彩色をし、
石をのせてぴたっとそれが収まったときの父のうれしそうな顔。
あまりにコレクションが増え、
母から、そのうちに家の床が抜けるからと、お小言がきてもどこ吹く風。
母もいたしかたなしとあきらめムードで、
それを知ってかマイブームが去るまで続ける父でした。

一階にある父のところには、まだまだ訳のわからないものがいっぱいあるはずです。
いちどちゃんと場所と、ありかを教えておくという父ですが、
聞くまえからため息が出そうな私です。

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さて、そんな父と一緒に、この5月に北海道に行く予定でいました。
そもそも札幌にいる父の弟にあたる叔父の体調がすぐれなかったことがあり
父も叔父も高齢、一度札幌にと思っていました。
ただどうしてもいざとなると重い腰があがらない父、
それが、たまたま昨年ブログの記事にライラックの名が出てきたことがあり
札幌のライラックが咲く頃、そんな季節、その花の名をだしたら、
もしかしたら行くと言うかもしれない・・
案の定、その話をしたら一度はうなづいてくれた父でした。
ところが日が近づくにつれ、またしぶりだした。
ひとつ屋根の下、一階にひとり住まいしながら
まだ晩酌の買い物からおさんどんまでこなしている父ですが
酔えば思い出話に花が咲き、釧路や小樽、札幌の話を嬉しそうにするくせに
いざ行こうと言うと、あれやこれや口実をつけて億劫がるのです。


もう86歳、無理もないのかな
北海道は遠いものね・・
あまり無理を言っちゃいけないのかと、そんなことを思う日もあります。
それでも今月末にはなんとかと思っていた矢先
新型インフルエンザの騒ぎが起こり、
父はこれ幸いと、それを口実にとりあえず延長と言ってきました。

何年か前まではフットワークもいいほうだったのに
ここ一、二年、急に億劫がるようになり、母のお墓参りも同行しないことが増えてきました。
それと同時にとても心配性になり、家族の一日を把握したがる。
子供たちの帰り時間も毎日のようにたずねてきます。

そんなだから、たしかに旅支度ひとつとっても着替えや薬の準備
留守中のこと、そんなことのひとつひとつが面倒なのでしょう、
かといって私がやるからと言っても、
それはそれで私に面倒をかけると思ってか、煩わしいからやめてくれと言います。

おりしも札幌でライラック祭りが開かれているというニュースが流れました。
この花が咲く頃、父と一緒に北海道に行きたいと思ったのは
もしかしたら私のひとりよがり、
幼い頃からたびたび父と二人で訪れた札幌をもう一度父と歩きたいという
私の思い入れだったのかな、
札幌でライラックが、と流れた時に、胸がツキンとしました。
リラという名前もあるこの花、
リラという美しい響きも好きだし、ライラックという軽やかで愛らしい語感も好き。
北の街のこの花の下を若き日の父と母も歩いたのでしょうか。

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昨日ちょうど叔父のところからアスパラが届いたと父が持ってきました。
いつもこの季節になると叔母が忘れず送ってくれるアスパラ。
ああ、叔父さんも叔母さんも体調落ち着いているのね、というと、どうもそうでもないらしい。
ならやっぱり急ごうか・・
すると父は、だからこそ今は会えないというのです。むこうもそうだろうと。
ただ面倒だというだけじゃない理由もあるのだと、一筋縄じゃいかない思いもつのります。
どちらにしても、今回の旅はまず父ありき、そう思っています。

この一週間、こんなことを考えながら少しずつ書いていたら
こんなに長く、とりとめもなくなってしまいました。

もしでかけることになったら
よく似た父娘、きっと旅さきでも口げんかがあるかもしれないけれど、
幼い頃、短気なのに、私の遊びには根気良くつきあってくれた父、
こんどは私が根気良く待つ番、
一緒に行こうと、行きたいと言ってくれるまで、父の気持ちにそってみようと思います。
by kisaragi87 | 2009-05-24 08:50 | 日々雑感
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