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新緑の中の金魚

大きな古時計が欲しいとずっと思っています。
別にノッポでなくていいし、掛け時計でいいから
低い音で ぼーん ぼーん って鳴る古い時計が欲しいのです。

アンティークのお店や骨董やさんに行って
かねてからの念願だからと、えいやっと気合いを入れれば買えないこともないのだけど
鉄筋3階建て3世帯住宅の我が家には、どうしても似合いそうもありません。

やはり物にも、物らしい居場所というのがあるような気がします。
今の我が家に無理やり置かれた古時計は
きっと場違いなそこで、どんな音で鳴ったらいいか途方に暮れるかもしれません。

そしてそんな時計が似合うだろうなぁと、いつも思い出すのが私が育った家でした。

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我が家は、夫と結婚してから、しばし二人だけのマンション暮らしをへて
当初からの目標だった
夫の両親、私の父親を集めた3世帯同居を始めました。
やっと叶った念願の家だったけれど
ひとつだけ残念だったのは、この家を建てるにあたって、
以前からここにあった、私の実家を壊さざるをえなかったことでした。

今の家があるここは、札幌から東京に出てきた両親が私が生まれたのを機に、
東京での仮住まいをひきはらい、
すぐ隣の、大きな川がある街へ引っ越し、家を建てたところだったのです。

かつてのその家は、三部屋が襖で仕切られ、
そのどの部屋にも面した広い縁側のある平屋でした。
部屋をはさんだ反対側にはまた廊下、そこに面したお勝手
L字廊下の正面が玄関で、曲がるとトイレがありました。

そんなに広い家ではなかったけれど、
ささやかながら、太陽がたっぷりと入る縁側と
祖母のためにと、少し大きめにとられた庭が心地のいい家でした。

庭には祖母の丹精した草花が年々増えていき
山茶花や椿の下には、可憐な花が咲き、梅雨には母の大好きだった紫陽花も咲きました。
この紫陽花は、今はあまり見かけることない淡い水色のもの。
当時は派手さのないこの花が少し寂しく思ったけれど、歳を重ねてから
濃いピンクや、ブルーの紫陽花ばかりを見ていると
妙にこの淡い色の紫陽花が恋しく思われるのです。

祖母はきれいに花を植えるのではなく
思いたったように、そこかしこに植えていくのですが
その無秩序とも思える植え方が、かえって自然な優しい趣をだして私は大好きでした。

これからの新緑の季節。
抜けるように青い空からは初夏の太陽がふりそそぎ
庭の片隅では、八重咲きの山吹とその下に紫の花大根。
アイリスや、シャガの花も咲いていたように思います。

そして何より好きだったのが、庭の滴るような緑が太陽に反射して
家の中まで薄緑の海の中にいるかのようになるときでした。
ちょっと薄暗い奥の部屋の白い壁は、どれも淡い緑色に浮かび上がり
風に葉がザワザワと揺れると、家のなかの緑も揺らめいて
不思議な気持ちになりました。
寝転がって、天井をぼんやりと見ていると
まるで自分が深い金魚蜂に沈んだ金魚にでもなったような気持ちになりました。



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昔ながらの家には、中の薄暗さと、外からの光の対比の美しさがあったような気がします。
そして夜ともなれば、その薄暗がりは、ますます力を増していくのです。

ここから、不思議ちゃんとトイレの話へと続くのですが、それはまた今度。
by kisaragi87 | 2007-04-24 20:10 | 思い出ぽろり
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