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今日もよろしく

先日の命日に、深川の仏具屋さんで買ってきたお線香を開けました。

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深川不動尊の参道にある仏具やさんの暖簾をくぐると
店番のおばさんがひとりで椅子に腰掛けていました。
声をかけていいものかと迷うほどひっそりとしていましたが
あのぉ~と遠慮がちに声をかけると、はっとしたように、おばさんがにっこりしてくれました。
「すいません、お線香を見せてくださいますか?」
そういうと、腰をあげたおばさんは、いくつかを私の前にならべてくれました。
「こちらが煙の少ないタイプ、こちらが新しいお花の香りです」
う~ん、違うんだよなぁ。
「いえ、もっと昔ながらのお線香がいいんです」
「あら、そう。。それじゃ煙は?」
「ああ、煙はじゃんじゃん出ていいです、でないと困るんです」
おばさん、今時珍しい人だなぁという感じの顔で私をみながら
「それじゃ、お寺さんとかで使っているお線香がいいかしらねぇ」と、まだ半信半疑な顔。
「はい、そういうのが希望です、
 あの、お不動さんでしか買えないお線香とかはないんですか?」
残念ながら、そういうものはないとのこと
昔ながらのお線香はたいてい京都などの関西地区で作られているのだと話してくれました。

そしていくつか隅の方から出してくれたお線香、
ひとつは伽羅で、ひとつは白檀の香りでした。
最初に香りをかいでみた伽羅はえもいわれぬ深くちょっとスパイシーで魅惑的な香り
そして白檀の方は、白檀という私が持っていたイメージをちょっとはずされたような
濃厚な香りがしました。

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伽羅も魅力があったのですが、いただきものもあったので
結局選んだのは白檀のほう。
白檀の香りには人間の精神を落ち着ける作用があり、サンダルウッドとも呼ばれるそうです。
義父の命日にあけて、さっそくたいてみると、その香りの強いこと。
我が家は2階が夫の両親の住まいで、三階が私たちの住まいになっていたため
お仏壇も二階にあるのですが
三階のリビングにまで香りがあがってくるほどで、
自分のリクエストだったとはいえ、家中が白檀の香りに包まれてしまいました。
我が家はお香の匂いに子供たちも慣れているので問題はないのですが
外からいらした方は、ちょっとびっくりするかもしれません。

お線香を買ったときに、おまけで
「ゼロ」という名前の煙の少ない無香料のお線香をいただきました。

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いただいたものに文句もいえないのですが、香りがなくて煙もでないお線香なんて
気の抜けた生ぬるいビールみたいなものだと思うのですが
ちょっとたとえが悪かったかなぁ(笑)
でもお香が苦手な人や、煙でいぶされるのが苦手な人には
きっとありがたいものなのだと思います。

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私は小学校から高校までをカトリックの一貫校で過しました。
ここは私の母が、遅くに生まれた一人娘を通わそうとみつけた学校で、
私立とはいえ、質素で穏やかな雰囲気の学園でした。
中学にあがったころから、父の勤めていた会社の倒産もあり
子供ながらも、ここへ通い続けていいのだろうかというぼんやりとした不安はあったのですが
「あなたひとりくらい、お母さんが何とでもする」 そう言う母の言葉には
私をここで過させたいという強い想いもくみとれ、
それ以上きくことはせずに、高校までをこの学校で過しました。

戦時中は兵舎だったという建物を、
そのまま校舎として使って始められた、女子修道会が設立したミッションスクールでしたが
そのクラシックでオンボロの校舎を
私たち生徒はよく愛着をこめて、明治記念館と呼んでいました。
薄暗い廊下はまあるい傘がかぶった電球に照らされ、
装飾手すりがついたギシギシいう広い木の階段はばたばた駆け下りると壊れそうでした。
ここはシスターたちが一から手作りしたという学校らしく
緑あふれる落ち着いた雰囲気の中で
陽気なシスターや穏やかな友人に囲まれて過した時間は恵まれていたものだと思います。
ただ中学から高校へあがる頃の、ちょうど自我の芽生えとともに
なんともいえぬ居心地の悪い自分を感じるようになっていったのですが
それはまたいずれお話ししようと思います。

ただここで身についた貴重なことのひとつに祈りがありました。
もともと幼い頃からお仏壇の前に座って祖母をみながら知らずに身についた
手を合わせるということは以前にも書いたのですが
この祖母の教えとともに、どうしてもこの学校で過した12年間の
朝から夕暮れまで祈りに始まり、祈りに終わる生活から身についた習慣は
私の一部となっていったと思われるのです。

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そうかといって、私はカトリック信者でもなければ、仏教徒でもありません。
ただ今でも毎朝仏壇の前に座り、お線香をくゆらせて
亡き人たちや、ご先祖様に手を合わせるときが何とも心落ち着く時間なんです。
じっと手を合わせて日々の幸せに感謝し、大事な人たちの今日の無事を祈る
そして今心にかかるざわめきや、迷いをうちあけたり
大切な友の身を案じたり祈ったりしながら、最後に目をあげると
お線香の煙がゆらゆらと揺らめいていたり、すーっと真っ直ぐに立ち上っていたり。。
それを見届けて、よしっ、さあ今日も始まった、と思ってスタートがきれるのです。



昨日は友達の家にちょっとおじゃまする用事がありました。
話をしながら、彼女がたてた美味しいお抹茶と甘いお菓子をいただいてきました。

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帰りがけに 「もしかしてそろそろ命日?」 と憶えていてくれて
庭に咲いた石楠花を切ってもたせてくれました。
お線香のゆらゆらとした煙に
ちょっと煙たいわ~ と石楠花がつぶやいたかもしれませんが
それでも私はお線香の煙を見て、今日もよろしくと、願うのです。

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by kisaragi87 | 2007-05-20 12:18 | 日々雑感
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