人気ブログランキング | 話題のタグを見る

晩酌と父

父が狭心症で少し体調をくずしていました、
もともと心臓があまり丈夫ではなかったのですが、
案外タフで、ふだんから、身の回りのことはほとんど私が手をかさずともこなしていたし
朝晩体操もし、私より元気なくらいだったので、すっかり安心しきっていました。
このさいだからほかの検査もしっかりしましょうということになったのですが
幸い今回は心配するようなこともなかったようでほっとしています。
でも思えば、去年の猛暑の時も少し体調の悪いときがあったし
もう85歳、無理もないことなんですよね。


いつも元気なことに甘えて、ほったらかし、
そのうえいい歳して喧嘩までして・・
煙草は厳禁だけど、ほどよい晩酌ていどならむしろいいとのこと
幸い煙草のほうは、すっぱりとやめてもう20年、
大好きな晩酌の方をやめなくて済んでほんとうによかったと思います。


私が結婚してからしばらく離れている時に身につけた家事、
もともとの凝り性も手伝って、特に料理はかなりの腕になりました。
母や私がいるときは、見向きもしなかった野菜料理や煮物や酢の物も食べ
夕食には野菜を少なくとも5品は揃えていると自慢している父。
でもそれらの日々の雑事をこなす原動力ともなっていたのが
ゆっくり楽しむ日々の晩酌なのです。

晩酌と父_c0114872_4505162.jpg


今でもよく覚えているのですが
母が倒れて入院したとき、白血病はもう手がつけられないほど進行していて
父も私もあきらめるように医者から告げられました。
それでもあきらめ切れなかった父は、人づてにきいた神や仏にもすがりたかったのでしょう
何もしてやれない妻に奇跡はおこらないかと
あちこちの神社仏閣を駆けずり回っていました。
へとへとで帰ってきた病室で、母が父に言いました。

「お父さん、お酒飲んでらっしゃい」
茶目っ気たっぷりに父に繰り返す母
たった4日の入院中、最期の日はもう何も話すことができなかったはずだから
きっと二日目か、三日目の夕方のことだと思います。
父もしばらくはかぶりをふっていましたが
「そうだな、やっぱり少し飲んでくるよ」
そう言いました。
母も、安堵した様子でした。
だから父には最期まで晩酌をさせてあげたい、
父のお酒には散々泣かされてきた母と私だったけど
そしてたぶん今だから言えるのだけど
母が、あの時にそう言ったのだもの、
だから最期まで晩酌をしてもらいたいのです、それができる日まで。


数日前の朝方、父が死んでしまった夢をみました。
大きな体育館のような場所で葬儀をしているのですが、
おおぜいの学生がそこにいて、まるで卒業式のような様子でした。
そしてその一隅から、少しずつ歌がきこえ初め、
その歌声がやがてだんだん広がり、
でも不思議と悲しいとかいう悲痛な気持ちではなくて、
なんともいえぬ安らかな気持ちでした。
ただ、またもういっぽうの心のかたすみで
父を死なせてしまったのは自分だというような、そんな気持ちもし、
ただ泣き続けました。

いずれそう遠くない将来くるであろう父との別れ
私はその時をどんな気持ちでむかえるのだろうと
目が醒めた布団の中で、しばらく想いました。


もう二、三週間ほど前だったか、父から
「何か怒ってるの?」
そんな言葉をかけられ、
しばらく何のことかわからず、何か言ったっけ?そう思って訊き返したら
「いや、ちょっとこわい顔してるからさ」
そう、言われました。
えっ、そんなこわい顔してた?
自分では気づかないうちに、忙しい、忙しいとそんな顔になっていたのでしょうか
それとも父の話に上の空だったのだろうか、
元気だと思っていた父に、八つ当たりみたいな顔を見せてたこともあったのかな、
あといつまで一緒にいられるかわからないのだもの、
できることなら笑顔見せてあげなくちゃ、そう思いました。

そして、父のテレビが壊れていたのにも気づいていませんでした、
一階と三階に住んでいてこれだもんな、
いかにほったらかしだったか、ばればれです。
父はもともとテレビよりラジオ派なので
もういらないと言います。
昔はテレビなんてなかったんだ、ラジオでじゅうぶんと。
だけど大好きな大相撲の時だけは、
早めに夕食の仕度を終え、
テレビの前で晩酌をしながら、こんないい桟敷席はないもんだとご満悦なのも知ってます。
強情っぱりなので、ぜったいテレビは買わないはず
今は安くていいものもあるから、ここはちと奮発するしかないかな・・
いや、実は大相撲と晩酌を楽しみに、
まだまだおさんどんしてもらおうという魂胆もありなんです(笑)
父も週末から、いつもどおりの生活にもどりました、
おさんどんも昨日から復帰、本人も、できるうちはそうしたいと言ってるし
正直言って私も助かります。
だからせめてものプレゼント、
そうそう、私のデジカメも、とうとう、うんともすんとも言わなくなりました。
もうあきらめて一緒にって思っています。

晩酌と父_c0114872_4515683.jpg



朝目が醒めるころ、早起きの父の一階のシャッターが、ガラガラとあがる音がします、
ああ、今日も元気だな、そう思って安心します。
そんな日が、まだしばらく続いてほしいと思いました。


父のことばかり、脈絡もなく書きました。
今のうちに書いておかないと、元気になった父とまたすぐに喧嘩して
気持ちがころっと変わったりするのです、たぶん、
もうお酒なんてやめちゃいなさいよ!ってね。
by kisaragi87 | 2008-06-02 05:09 | 日々雑感
<< メロン いつも心に >>